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    11/17/2009

    マオイスト,土地没収再開

    谷川昌幸(C)
    マオイストが地方で土地没収を再開した,と報道されている(ekantipur, Nov14)。マオイスト理論からすれば,地主の土地没収は当然だが,なぜこのタイミングなのだろうか? 20日の文民支配回復回答期限への景気づけか? それとも,ブルジョア化した党幹部への反逆か?
     
    そもそも土地没収・分配(農地解放)は,米帝国主義でさえ日本に対して強行した政策であり,極めて近代的,民主的改革である。米帝ですらやったことだから,マオイストがやって悪いことはない。政府にできないのなら,マオイストが代行して農地没収・分配をやればよい。ネパールの地方の近代化は一気に進むであろう。
     
    もう一つ,農地解放以上に重要なのが,都市部の不動産。これはネパール・バブルの諸悪の根源であり,こんなものこそ全部没収し,コミューン所有としてしまうべきだ。宅地,豪華住宅,賃貸マンション,豪華商業施設,こんなものは没収するか,懲罰的課税で国庫物納させる。不動産投機に走る銀行の接収も必要だろう。全部マオイスト理論に即した政策だ。
     
    地方の土地解放,都市部の不動産解放をマオイストが実行すれば,ネパールが一気に近代化することは間違いない。
    11/9/2009

    ゴルカのマオイスト農場

    谷川昌幸(C)
    UWB(10/18)が,Neil Horning氏のマオイスト農場訪問記を掲載している。
     
    農場はゴルカのバブラム博士の村にあり,マオイストがモデル農場として運営している。働いているのはマオイスト20~30人と,ほぼ同数の村人(給与100~400ルピー/日)。
     
    男女比は50:50。料理は男女でつくり,決定は定期集会で行う。inclusiveで民主的だ。集会場には,マルクス,エンゲルス,スターリン,毛沢東の肖像が掲げてある。まだまだスターリンは健在だ。
     
    写真を見ると,なかなか立派な農場だ。ゴルカは近いので,次の機会に見学に行きたい。また,私自身,あるマオイスト協同組合の役員になっているので,わが協同組合もこんな立派なものになっているか,こちらも見学に行こうと思っている。
     
    11/2/2009

    人民蜂起か軍決起か

    谷川昌幸(C)
    ちょっと大げさなタイトルだが,マオイスト系新聞を見ると,現状はこんな感じになる。
     
    1.マオイストの街頭行動計画
    マオイストは,政府が文民支配回復要求にこたえなければ,下記のような抗議行動をとると発表した。
     
    11/1  抗議運動開始宣言。全国たいまつデモ
    11/2  全国町村役場の包囲デモ(Gherao)
    11/3  お休み
    11/4-5 郡役所の全日包囲デモ
    11/6-8 お休み
    11/9  自治共和国宣言(解放区宣言?)
    11/10 カトマンズ盆地閉鎖,空港完全閉鎖
    11/11 お休み
    11/12-13 数百万人規模で政府庁舎包囲デモ
     
    これはスゴイ蜂起計画だ。人道的にお休みもあるが,本当に実施されたら大混乱となり,各地にマオイスト自治共和国=解放区が出来るかもしれない。
     
    2.軍総監の訪米
    この状況をにらみながら,チャットラマン・グルン軍総監がハワイ開催の軍会議に出席する。グルン軍総監は,バイラバナート基地でのマオイスト捕虜大量失踪事件への関与が疑われている。
     
    グルン軍総監は,米軍事大学校で教育を受けており,おそらく米軍とはツーカーであろう。マオイストが計画通り人民蜂起,自治共和国(解放区)設立に向かえば,グルン軍総監の出番となるかもしれない。
     
    秋祭りが終わり,いよいよ政治の季節が始まった。
     
    (Revolution in SA)
    マオイスト系新聞挿絵。この構図は,ネパール首相の統一共産党の十八番だった。懐かしい。
    10/20/2009

    マオイスト・ポスター5種

    谷川昌幸(C)
    すごいポスターを見つけた。目から光線が放射されている。原寸の迫力は革命的。宣伝用ポスターだから,著作権は主張されないだろう。いや,そもそもマオイスト・イデオロギーからして,そんなけちなブルジョア的権利要求はないはずだ。というわけで,ここでご紹介する次第。
     
     
     
    8/6/2009

    弁証法,H・ヤミ,サイエントロジー

    谷川昌幸(C)
    統一ネパール共産党毛沢東主義派(UCPN-M)という長い名前の党の中央委員,ヒシラ・ヤミ氏が,長く壮大な文章を書いている。「テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ」(ekantipur, Aug.6)。
     
    このような壮大な弁証法を見ると,わが古き良き時代を思い出す。「正・反・合」だの「措定・反措定・綜合」だの,よく議論したものだ。
     
    ヤミ氏の弁証法はそのような観念論ではない。措定=主戦論(ロルパ),反措定=和平(カトマンズ),綜合=今回の中央委員会決定。ロルパとカトマンズの2LS(2 line-struggles)の弁証法的綜合である。
     
    弁証法は魔法の論理だ。何でも都合よく正当化できる。そして,常により上位の次元へと進歩している。制憲議会が弁証法的綜合の結果,議論不可能な金食い虫601議席巨大議会になってしまったのも,この有難い弁証法のせいだ。マオイストも弁証法により,役職だらけとなったらしい。議長,副議長,書記長,書記,会計等々。
     
    しかし,今回の中央委員会決定はより上位の次元に達しているから,もはや多党制議会制民主主義は,明確に否定された。ヤミ氏が繰り返し強調しているように,UCPN-Mは,人民民主主義の樹立を目標に弁証法的2LS闘争を展開することになった。 マオイストだから当たり前ではあるが,こうはっきり宣言されると,国連や国際社会は困るのではないか? これまでの和平合意が根底から覆されてしまう。
     
    このヤミ氏論文について,もう一つ興味深いのが,サイエントロジーとの組み合わせ。まさかマオイストがサイエントロジーと共闘しているとは思わないが,ではこの紙面はいったい何か? こんな扱いをされて,ヤミ氏,あるいはマオイストは抗議しないのか?
     
    思想の無政府状態。いや,世紀初めの世紀末的退廃・無節操といわざるをえない。
     
     (ekantipur, Aug.6)
    7/6/2009

    戦闘員5千人だけ統合?

     谷川昌幸(C)
    プラチャンダ議長の暴露発言「人民解放軍4~8千人」が尾を引いている。停戦前の急増以前は,人民解放軍は4~8千人と見られており,私もそう書いてきた。だから,定義にもよるが,ハードコア「戦闘員」はせいぜいそのくらいだと見てよい。
     
    この数字を,MK・ネパール首相が,また持ち出した。数日前,国軍へ統合されるのは人民解放軍5千人だけだ,とロイター記者に語ったのだ。マオイストはカンカンに怒っているが,首相は,この数字はプラチャンダ前首相が語ったものにすぎない,としらばっくれた。
     
    プラチャンダ前首相とネパール現首相は,どちらもブラーマン共産主義者で,雰囲気がよく似ている。いずれも「狐」ではなく「狸」だ。
     
    そんな中,マオイストは人民解放軍幹部2名をドイツに派遣した。あご足つきかどうか知らないが,西独軍と東独軍の統合経験を調査するのだそうだ。真面目といえば真面目だが,くそ真面目なドイツの経験など,ドロドロ・グチャグチャのネパール政治には,あまり役に立つとは思えない。
     
    共和国狸合戦で決着を付けた方が,手っ取り早いと思うのだが。
    7/3/2009

    マークス説批判:プラチャンダはファシストか?

     谷川昌幸(C)
    プラチャンダ議長(前首相)は,人民戦争の英雄だが,まとまった伝記は今のところ一つしかない。
     
    Anirban Roy, Prachanda: The Unknown Revolutionary, Mandala Book Point,2008
     
    この本については,すでに紹介したので,詳しくはそちらを見ていただきたい。一言で言えば,人民戦争の分析は表面的だが,プラチャンダの生い立ちやマオイスト運動の大筋をつかむのには便利な本だ,ということである。何よりも,平明簡潔な英語で書かれているので読みやすい。
     
    このロイ著『プラチャンダ』について,最近,トマス.A.マークス教授が,手厳しい書評を書いた。
     
    Thomas A. Marks, "Will the real Prachanda stand up?," ekantipur, 22 Jun.
     
    マークス教授は,米国軍事アカデミーを卒業し,ハワイ大学で途上国の人民反乱を研究し博士号を得た。現在,アメリカの「国防大学(NDU)」教授で,途上国人民反乱やテロリズムを研究している。
     
    この経歴からしてマークス教授の立場は容易に推測できる。タカ派であり,この書評でもマオイストやプラチャンダを容赦なく断罪している。
     
    マークス教授によれば,マオイスト研究においては,リーダーと地域活動家,中核部隊と下部組織の関係の分析が重要である。この観点から見ると,プラチャンダが地域闘争をどこまでコントロールしていたのか,疑問だ。また,プラチャンダとインドとの関係にも,疑問が残る。
     
    次に,人民解放軍については,中核部隊は氷山の一角であり,武器も隠されているものは数えようがない。マオイスト駐屯地には,地方部隊も急募兵もごっちゃに収容された。UNMINは数え間違えたというよりは,誰を「戦闘員」とするか明確でなかったため,「本物のゲリラ」以外のものまで数え上げてしまった。
     
    マークス教授によれば,プラチャンダ議長は権力を奪取し人民共和国を樹立することを目指している。
     
    方法は二つ。(1)平和的権力奪取=現体制をそっくりマオイストへ全面降伏させる。(2)暴力による権力奪取=激しい街頭直接行動により権力を奪う。
     
    ロイ著『プラチャンダ』は,これら決定的に重要なことについて,ほとんど分析していない。しかし困ることはない,とマークス教授はいう--
     
    「他に(文字通り)何千もの回答があるからだ。大戦間のファシズム勃興に関する文献のどれか一つでも読んでみよ。そこには,いまネパールで起きていることが,はっきりと書かれている。[ナチス]突撃隊の名ではなく,別の名称[人民解放軍]が使われているので,その罪悪が見えないだけだ。」
     
    マークス教授の書評は,教科書のように平明なロイ氏の文章とは逆に,まったくもって難解晦渋,正直,よく分からないところが少なくない。文章だけなら,ロイ氏の方が何倍も優れている。どの国でも,強面タカ派は難文をありがたがるようだ。
     
    そして,マオイストをファシズムと同視するのは,あまりにも単純だ。マオイストがナチスなら,プラチャンダはさしづめヒトラーというところか。
     
    これは,マオイストやプラチャンダの誉めすぎである。どこをどう見ても,彼らはナチスほども近代的・合理的ではない。綱領など建前は近代的・合理的なのだが,実際の行動はコテコテのネパール風,微妙に前近代的かつ近代以後的だ。
     
    そのマオイストをナチスやヒトラーにたとえるのは,的外れである。人民反乱・テロリズムの専門家とは思えない杜撰な議論だ。
     
    ブッシュ前大統領もそうだったが,アメリカのタカ派は,あまりにもイデオロギー的すぎて,現実をリアルに見ることが出来ないようだ。マークス教授も,タカ派イデオロギー過剰で,マオイストの現実が見えていないといわざるを得ない。
     
    これに比べ,酷評されているロイ氏の本は,分析は表面的だが,少なくともプラチャンダ議長のパーソナリティや人民戦争の概略を知るには,便利だ。なによりも,読みやすいのが,平民にはありがたい。
    5/25/2009

    人民解放軍の処遇

    谷川昌幸(C) 
    MK・ネパール新首相は,国軍統幕長問題をどうするのだろう。裏取引ができているのかもしれない。あるいは,任期はあとわずかだから,定年退職による自然解決を待つ手もある。
     
    これに対し,もはや待てないのが人民解放軍(PLA)の統合問題。包括和平協定の約束だから,統合放置は政府とUNMINの違約であり,責任は免れない。 プラチャンダ議長が8千人と言おうが,そんなことは関係ない。UNMINが2万人と認めたのだからPLAは2万人いるのであり,そのうちの何人を,どのように選択し統合するか,選抜から漏れたPLA戦闘員をどのように社会復帰させるか,ネパール首相は早急に方針を示し,彼らの不安を払拭すべきだろう。
     
    以前,チトワンのPLA駐屯地を訪問し観察した限りでは,特に男性戦闘員はゲリラの雰囲気を色濃く持っており,社会復帰は難事であるように感じた。現在のような軟禁状態が継続すれば,社会復帰はますます困難となり,精神状態もますます不安定となるだろう。 ネパール首相が,PLA戦闘員に何らかの希望を示すことができなければ,彼らは急進派を押し立て再びジャングルに戻る危険性がある。
     
    人民解放軍の処遇は,平和実現のためには,憲法制定よりも優先されるべき政治課題である。
    5/13/2009

    屁理屈さえるプラチャンダ氏

    谷川昌幸(C)
    『ザ・ヒンドゥー』のプラチャンダ独占インタビュー後半(5月12日付)は,プラチャンダ(暫定)首相の屁理屈で大いに楽しませてくれる。これなら吉本でも十分通用する。
     
    まず人民解放軍(PLA)統合が,個人としてではなく部隊単位であるべき理由は,国軍支配のためではなくスムースな統合のためだ,と説明される。
     
    「PLAメンバーは軍事的にあまり訓練されていない。むしろ政治的・イデオロギー的だ。だから(個人として)国軍部隊に分属させられたら,真の統合に3~4年はかかる。それに,国軍の民主化も必要だし。」
     
    あれ,先のビデオで国軍のマオイスト化を唱えていたのではなかったかしら? すかさずそこを,インタビューアーに突かれると,こう断言した。
     
    「(国軍統合後の)PLAメンバーは,国家に,つまり政府に忠誠を尽くすべきだ。われらは,この点では,何の野心もない。」
     
    本当かなぁ? 自分で,PLAメンバーは政治的・イデオロギー的,つまりマオイスト教化されていると認めておいて,そんなことを言って大丈夫かな?
     
    おそらく,マオイストが政権を握っている限りは,PLA系国軍は政府に忠誠を尽くす,という意味だろう。新民主主義になれば,そこに齟齬はない。そうに決まっているが,こうあっけらかんと言われると,そんなところまでは気が回らない。
     
    このインタビューでは,例のPLA兵員数もまた蒸し返された。プラチャンダ首相によると,7-8千人は中央部隊だけで,地方部隊も入れると3万5千人になるのだそうだ。もしそうなら,NCの要求に譲歩し,数え直しをすれば,あと1万5千人増加することになる。マオイスト民兵も入れたら,さらに7万人。
     
    さすが,狸親父。NCや国際社会の要求で数え直しになっても,決して損はしない理屈をこね上げている。屁理屈だが,理屈は通っている。すばらしい。
    5/12/2009

    狸親父プラチャンダ氏と,イジられるインド

    谷川昌幸(C)
    インド紙『ザ・ヒンドゥー』(5月11日)のインタビューを見て,思わず「狸親父!」と叫んでしまった。愛嬌があり憎めないが,とんでもない狸親父だ。(一国の首相を「狸」呼ばわりするのは穏当でないと感じる人もいるであろうが,日本では「狸」は愛されており,「狸親父」も決して決して蔑称ではない。尊称といってよいくらいだ。)
     
    例のカトワル統幕長解任問題で,プラチャンダ(暫定)首相は,人民解放軍(PLA)の国軍統合を拒否してきたカトワル統幕長は文民支配(シビリアンコントロール)原則違反であり,それ故,絶対に解任されるべきだ,と繰り返し主張している。
     
    たしかに,国軍は内閣の指揮下にあるし(包括和平協定CPA§4,暫定憲法§144),PLAの国軍統合もCPA(§4.4),武器兵員管理監視協定(§4.1.3),暫定憲法(§146)等に明記されている。その限りでは,プラチャンダ首相の主張は正しい。
     
    しかし,武器兵員管理監視協定(§4.1.3)によれば,「駐屯地(カントンメント)で適正に登録されたマオイスト戦闘員のみが治安部隊への統合資格を有する」。 この大前提を,プラチャンダ氏は先のビデオ発言で根底から覆してしまった。(より正確に言うなら,マオイスト=UNMINの裏取引を表に出してしまった。)
     
    これにより,PLA統合の大前提があやしくなり,カトワル統幕長の言い分にかなりの説得力が出てきた。が,プラチャンダ首相は,そんなことは素知らぬ顔で,PLAの国軍統合を言い立てている。どうにも食えぬ狸親父だ。
     
    それよりも,もっと根本的な問題は,プラチャンダ首相自身が人民解放軍を使って文民政府を攻撃して倒し,そして(名目上は退任したが)実質的にはいまもPLAを握り軍事力で権力を維持しているにもかかわらず,素知らぬ顔で,文民支配原則を言い立てていることだ。PLA最高司令官が首相をやっているのではないか? これは軍人支配ではないのか?
     
    さらに傑作なのが,インドをおちょくり,おだて,したたかに利用しようとする,そのバカバカしいまでの面白さ。
     「これは,文民支配か軍人支配かの原則問題だ。」
     「たとえ職を辞すとも,ネパールに文民支配を確立しなければならない。」
     
    これが,革命のためならヒトラーをも容認すると言ったプラチャンダ首相の発言だ。そして,ここからインタビューはいよいよ佳境にはいる。なんと彼は,インド民主主義とパキスタン軍国主義を対比し,文民支配のインドはマオイスト文民政府を全面的に支持すべきだ,と要求するのだ。
     
    「パキスタンで起こったことは何だったのか。これに対し,インドは文民支配だが,それは1947年から今日にいたるまでどのようにして確立していったのか。これこそ,ここでの議論だ。」
    「われらは,パキスタンではなくインドの経験から,この問題については学ばなければならない。」
     
    プラチャンダ首相によれば,インドこそ,ネパールの模範であり,だからこそ彼はインド大使やニューデリーに支援を求めてきたのだ。インドは,ネパールのパキスタン化,軍国主義化を望んでいないはずだ。だったら,軍人支配のカトワル統幕長ではなく,文民支配のマオイスト政府をこそインドは応援すべきではないか。
     
    お見事! インドの誇りをくすぐり,弱みをそれとなくつつき,イヤといえないように話を持っていく。これまでさんざん「帝国主義」だの「大国主義」だのといって非難攻撃し,塹壕まで掘らせたことなど,ケロッと忘れ,インド民主主義を誉め称える。右手で殴り,左手で握手する。これぞ,ネパール政治! こんな粋な議論は,日本の政治家にはとても期待できない。
     
    とんでもない狸親父だ。が,本物の狸と同様,どうも憎めない。やはり愛すべき政治家だ。
     
    5/10/2009

    ワシントン激怒,プラチャンダ発言に

    谷川昌幸(C)
    プラチャンダ首相の例のビデオがワシントンを激怒させている。といっても,「ワシントン・タイムズ」が代弁するようなワシントン筋ではあるが。
     
    アメリカは原理主義であり,都合の悪い事実はコロッと忘れ,自己中の正義を振りかざし,外国介入をする。ダントツの軍事力を持っているので,恐ろしい。
     
    ネパール・マオイストの躍進も,もとはといえば,アメリカが新自由主義市場経済をネパールにまで強制したことが,根本原因だ。それなのに,そんな事実はケロッと忘れ,ネパール・マオイストに懲罰爆弾を浴びせそうな勢いだ。まずは言い分を聞いてみよう。
     
    ワシントン・タイムズ社説「ネパール・マオイストの裏切り」(5月7日)によれば,プラチャンダは国連をペテンにかけ,だました。彼の目標は,和平を利用して全権力を掌握し,共産主義体制を実現することだ。
     
    カトワル統幕長は,「『元』ゲリラは洗脳された狂信者であり,国軍の支配権を握ろうとしている」と言っているが,まさにその通りだ。
     
    そのカトワル将軍解任に失敗し辞任したプラチャンダは,文民統制などとバカなことを言い出し,またまた共産主義の悪党どもを街頭に出し,国連介入を要求している。
     
    暴露ビデオを見れば分かるように,マオイストは民主主義の制度を巧みに利用しているだけだ。プラチャンダは,「政府との妥協は戦術にすぎない」,「叛乱はなお続いている」,「少数のゲリラだけでネパール軍の『完全なマオイスト支配』を実現できる」と言っている。武器を置く気はなく,紛争犠牲者への援助金まで上納させている。
     
    「あっけらかんと,プラチャンダは,まだ自分は本当はテロリストであり,交渉相手は間抜けだ,と明言した。」「勝利したのに,なぜ和平の約束を守らなければならないのか? 優位に立ったのに,そんなものを守るべきだろうか?」
     
     「ネパールとパキスタン・スワート谷の状況は,手段を変えても目標は変えない過激派との交渉の危険性をよく示している。」スリランカやコロンビアでは,叛徒と断固戦って成果を上げてきた。ゲリラ戦争には,ペンで負けることもあるのだ。
     
     ネパールは,共産主義の不誠実・二枚舌の好個の実例であり,ゲリラ相手には「交渉を断つこと」こそが最善の方法だ。
     
    ――レーガンさんやブッシュさんが読んだら,その通り,と膝を打ちそうな勇ましい議論だ。そして,注意すべきは,アメリカは基本的に原理主義国であり,使命感に燃え直情径行に,悪魔=共産主義を壊滅させるため,爆弾の雨を降らせることだ。
     
    アフガンに起こったことがネパールには起こらない保証はない。老練なプラチャンダ首相は,こんなことはもちろん織り込み済みだろうが,念のため,ご忠告申し上げておきたい。
    5/9/2009

    老練なプラチャンダ氏,インド大使らと会談

    谷川昌幸(c)
    愛され恐れられるプラチャンダ氏は,「老練な政治家」でもある。暴露ビデオでは,ヒトラーとの妥協ですら,革命のためとして容認している。プラチャンダ氏は,革命のためであれば,悪魔との交渉でも始めるに違いない。
     
    そのプラチャンダ(暫定)首相が,昨日,帝国主義者お歴々と会談した。UNMINのカレン・ランドグレン代表は,ウソついちゃダメよ,とたしなめたらしいが,老練プラチャンダ首相がPLA戦闘員の再調査(つまり減員)に応じるとは思えない。それどころか,10万人に増員されかねない。また,数え直しをすれば,裏取引,あるいはUNMINのデタラメがばれてしまう。だから,NCがいくら叫んでも,やらないだろう。
     
    そしてまた,老練プラチャンダ首相は,なんとラケシ・ソード印大使とも会った。大使はNCの意見を聞けと要求したらしいが,首相は,カトワル将軍が辞めてからネ,と一蹴した。
     
    さらに帝国主義本家のナンシー・パウエル米大使とも会った。会談内容は伝えられていないが,パウエル大使はGP・コイララNC党首とも会っているから,話はインド大使との会談と同じような内容だったのだろう。
     
    プラチャンダ首相は,悪魔相手に交渉できるほど老練だから,印米大使との交渉なんか平気だろう。きっと,亡き名君ビレンドラ国王や迷君ギャネンドラ国王ともさんざん交渉し,適当にあしらってきたのだろう。
     
    このような老練な政治家との交渉は,難しい。 こうした場合,有効なのは王党派「人民評論」(5月8日)のような,手の込んだ攻撃だろう。
     
    それによれば,マオイストは,ネパール防衛のためと称して国境沿いに塹壕を掘らせ,ニューデリーを怒らせた。そのくせ,ニューデリーに準備させた12項目協定により権力を奪取した。
     
    インドはかねてより,王制の神の盾(イージス)により固く守られてきた強力なネパール・ナショナリズムを,忌々しく思ってきた。そこにマオイストが絶好の口実を差し出してくれた。マオイストは,議会7党と同じ方法で,つまりインドの力を借りて,権力に就いたのだ。だから,マオイストをナショナリズム(愛国)勢力ということはできない。
     
    プラチャンダ首相のアキレス腱は,やはり本気でインドとは全面対決できない,というところにあるのだろう(他党にもできないが)。どこでインドと手を打つか,そのチャンスをプラチャンダ首相はねらっているのだろう。これは難しい。やり過ぎると,足元をすくわれる。
     
    ■マオイスト駐屯地の自衛隊員
    (写真は防衛省HP)
    *こんな厳しい政治闘争の場に,無菌室培養の陸自隊員を送り込んで,大丈夫なのか? マオイズムに取り憑かれかねない。
    5/8/2009

    ビデオ暴露反撃記事,ライジングネパール

    谷川昌幸(C)
    プラチャンダ演説ビデオ暴露に対する反撃記事をライジングネパール(5/7)が掲載している。いわゆる「消息筋」もので,ビデオの立案から作成,編集,配布まで,要点が克明に説明されている。スゴイと感心しつつも,あまりのリアルさに,ホンマかいな,と突っ込みを入れたくなってしまった。
     
    消息筋によると,このビデオは,カトワル将軍の命令により作成,編集され,配布された。
     
    1.国軍DB・タパ少佐
    国軍のタパ少佐は,人民解放軍の副隊長の一人を知っており,プラチャンダのビデオを撮り持ち出すよう(カトワル将軍に)命令された。(任務終了後)カトワル将軍はタパ少佐を表彰し,コンゴUNミッションに送り出した。報酬として金を3回に分け受け取った。
     
    2.国軍心理作戦本部
    ビデオの編集,配布を担当したのは,国軍の心理作戦本部(R・チェットリ本部長)。ここでは,これまでにも,対マオイスト作戦として,デケンドラ・タパ殺害事件やバス攻撃炎上事件のビデオも作成された。
     
    3.国軍幹部会議
    国軍幹部会議が招集され,ビデオ配布が審議されたが,この場には,クルバハドール・カドカ将軍(カトワル将軍の次席,プラチャンダ首相により統幕長代行任命)は招かれていなかった。
     
    4.国軍司令部
    国軍司令部が,ビデオを各政党幹部に配布。配布先:ヤダブ大統領(NC),MK・ネパール(UML),オーリ(UML),GP・コイララ(NC),その他各党幹部。
     
    さらに国軍司令部は,ビデオを翻訳し,大使館にも配布した。配布先:インド大使館,アメリカ大使館。(日本大使館は挙げられていないが,記事が事実なら,おそらく配布されているだろう。)
     
    そして,国軍司令部は,民間TVに放送させた。ただし,大統領には放送のことは知らせなかった。
    国軍旗
     
    ――以上が,反撃記事の概要。日時が入っていないのが玉に瑕だが,それをのぞけば,よくできている。見てきたような話だ。本当かなぁ?
     
    しかし,われらがプラチャンダ氏には,こんな援護射撃など不要だろう。ビデオを流されたって,蛙の面に水,まったくこたえていない。むしろそれを逆手にとり大反撃に出ようとしている。 この調子では,分裂しない限り,マオイスト支配はさらに強化されそうだ。
    5/7/2009

    愛され恐れられるプラチャンダ氏

     谷川昌幸(C)
    今日は,ちょっと誉めすぎかもしれないが,さらに期待を込め,「愛され恐れられるプラチャンダ氏」と言ってみよう。
     
    1.政治家の資質
    政治家論の古典,マキャベリ著『君主論』によれば,政治家は「愛されている」だけだと,恩恵がなくなればすぐ見捨てられ,権力が維持できない。「恐れられる」のは「愛される」のよりはるかにましだが,これでは積極的支持がえられない。だから,政治家たるもの,すべからく「愛され恐れられる」ことを目指さなければならない。では,プラチャンダ氏はどうか?
     
    2.愛されるプラチャンダ氏
    プラチャンダ氏は,権力をとると,デレデレ身内を連れ歩き,金ぴか時計をつけ,一張羅の背広をあつらえた。メーデーには,さぼって郊外に遊びに行った。プラちゃ~ん,そんなことしていては,ダメよ,と声をかけたくなるほど,通俗的,小市民的だ。ネアカで,何をさせても愛嬌がある。どんな失敗も,しょうがないプラちゃん,で許されてしまう。
     
    今回の暴露ビデオでも,人民解放軍4000~8000人としゃべってしまったが,6日記者会見で,あれは中央部隊だけ,本当は10万人いるんだ,と弁明すると,あっそういうことか,そうだよネ,ゲリラだから10万人,いや100万人いても不思議ではないね。プラちゃん万歳! と言うことになってしまいそうな雲行きだ。
     
    おまけに,勢い余って,首相辞任をしてしまったものの,でもボクちゃん,まだ(暫定)首相だし,次の首相にもなっちゃうもんネ,というと,そうそう,そうなのよね,やっぱりプラちゃんでないと,いまのネパールの首相はつとまらないよね,とこれまたどんでん返しとなりそうな状況だ。ネアカ政治家プラチャンダ氏の面目躍如といったところだ。
     
    3.恐れられるプラチャンダ氏
    しかしその一方,プラチャンダ氏は,恐ろしい政治家でもある。人民戦争を10年余にわたって指導し,数々の残虐行為をやらせてきた。マキャベリも,必要な残虐行為は一気にやってしまえ,と忠告している。
     
    今回のビデオでも,恐ろしいことを言っている。――毛沢東は,革命を進める一方,ニクソンやマルコスと手を結んだ。スターリンもまたヒトラーと手を結び,つぎにはチャーチルとルーズベルトに乗り換えた。このように革命のためには妥協も必要だ。われらは権力奪取のためなら,あらゆる手を使う。われらがやることはすべて革命のためだ。われらを信じよ!
     
    すさまじい権力への意思だ。プラチャンダ氏は権力のためなら非情に徹し何でもやる。今回のビデオ流出事件でも,さっそく関係者が党に捕らえられた。恐ろしいリンチは免れないだろう。プラチャンダ氏は,そのように見られ,恐れられている。
     
    マオイストは恐怖でプラチャンダ氏に結びつけられており,裏切ることはできない。プラチャンダ氏の力のもう一つの源泉はここにある。
     
    4.ネアカ「テロリスト」首領
    今回のカトワル将軍解任事件のさなか(4月30日),アメリカはマオイストの「テロリスト指定」継続を発表した。カトワル将軍=旧体制派を支援し,マオイストを権力から引きずり下ろそうともくろんだのである。ところが,皮肉なことに,これは,プラチャンダ氏に「テロリスト」首領の勲章を与えることで,彼の支配力強化の後押しをすることになってしまった。
     
    プラチャンダ氏は,ネアカ権力政治家として,「愛され恐れられている」といってよいだろう。  
    5/6/2009

    愛すべき政治家プラチャンダ氏

    谷川昌幸(C)
    プラチャンダ氏は,やはり愛すべき政治家だ。暴露ビデオ(2008年1月2日録画)の内容を伝える各紙を読むと,プラチャンダ氏は小役人のように些事にはこだわらず,人民解放軍兵士の前で剛胆快活に本音を語っている。
     
    “「他人にしゃべってはいけないよ」と人民解放軍最高司令官は笑みを浮かべて語り,「でも,これは事実だよ」とつけ加えた”(KOL,May6)。
     
    「秘密だから誰にも言ってはいけないよ」と言って,秘密が守られた試しはない。にもかかわらず,多人数の前で演説しビデオ撮影まで許したのは,それが公然の秘密であり,誰もが知っていたことだからだ。UNMINに3万5千人とふっかけ,2万人を認めさせた。運動の成果だ,これからも頑張ろう,というアジ演説だ。
     
    政治においては,だます方より,だまされる方が,悪い。だまされたと言って騒ぐのは,小児的。みっともない。
     
    UNMIN幹部だって,だまされてはいない。すべて分かった上で,マオイストの言い分を飲み,2万人を認定する政治取引により,マオイストを和平テーブルに着かせたのだ。小児的バカ騒ぎに,ヤレヤレ処置なし,と苦笑しているに違いない。
     
    そもそも人民解放軍の正規兵が4000~8000人であることは,周知の事実であった。ただ,ゲリラ戦なので,ハードコア部分の周辺に多数の同調者がいて,明確な線引きは困難であった。だましたなどとバカなことを言っているのは,正規軍同士の近代戦と勘違いしているだけのことだ。
     
    マオイストが,カントンメント収容を前に,兵士を急募していたことは周知の事実だ。
      2006/11/15 カッコ不要のヤラセ
     
    こうして,少年を含む多数のマオイスト兵が急募され,カントンメントに収容されたのだ。 そして,そんなことは,支給金のピンハネも含め,UNMIN幹部は全部分かっていた。プラチャンダ氏もUNMINも全部分かった上で,大人の政治取引をしてきた。ところが,それに危機感を募らせた南の某国,あるいはその手先が,彼らの大人のウソをバラしてしまったのだ。
     
    プラチャンダ氏は,剛胆快活が災いして,この反撃により失脚するかもしれない。王様は裸だと言われ,ネパール王制があっけなく崩壊してしまったように。
    5/5/2009

    プラチャンダ氏の勇気

    谷川昌幸(C)
    プラチャンダ氏はやはり偉い。いま,こんなことを言うと,見通しが外れ恥をかくことになるかもしれないが,それでもプラチャンダ氏は有能な政治家だと願わずにはいられない。
     
    カトワル解任騒動の最中の5月1日,プラチャンダ首相はメーデーをすっぽかし,カトマンズ近郊の「ワイルドライフ・リゾート」に静養に出かけた。家族やBM・プンら幹部も一緒,総勢60名だ。なぜメーデーをさぼったのか,と詰問された首相は,側近を通して「ちょっと息抜きがしたかったから」と答えた。
     
    実に,味がある。以前,「プラチャンダは内藏助か」と問題提起したが,このメーデー不参加事件をみると,世間の反応を見通した上で,意図的にそうした行動をとっていることは明白だ。「討ち入り前」の大石内藏助のように,プラチャンダ首相の優柔不断や放蕩も,大事の前の仮の姿ではないか?
     
    この観点から,今回のカトワル統幕長解任事件を見ると,解任に成功し国軍をマオイスト化できれば,マオイストの大勝利,もはや国内に敵はいなくなる。プラチャンダ氏はネパール全土のマオイスト化に着手できるわけだ。しかし,これには失敗した。
     
    そのかわり,プラチャンダ氏は,さすが歴戦の強者,争点をうまくつくりあげた。ナショナリズムだ。
     
      カトワル将軍=印+米 vs プラチャンダ+ネパール人民
     
    印米帝国主義(とその手先の日本)が,王党派の反動カトワル将軍を応援し,ネパール人民を帝国主義支配に隷従させようとしている。私,プラチャンダはこれを絶対に認めない,と。
     
    そして,プラチャンダ氏が偉大なのは,硬軟両様の作戦をうまく使い分けることだ。プラチャンダ氏は,政権を失っても,ジャングルには戻らないだろう。彼は,はっきりと「議会と街頭で闘う」と宣言した。カトワル=印米=NC+UMLという図式を強烈に印象づけた上で,政治闘争を闘うというのだ。
     
    近現代において,闘いは,ナショナリズムの錦の御旗をとった方が勝つ。もしマオイストがプラチャンダ派とバタライ派,あるいはバダル派等に分裂しなければ,そして,駐屯地の人民解放軍がもう少し辛抱できれば,プラチャンダ氏は今度は政治的に勝利し,偉大なナショナリストの地位を不動のものにするだろう。
     
    といっても,帝国主義諸国,特にインドにとって,ネパールのマオイスト化はたいへんな脅威だ。人民戦争10年余。学校にも行かずマオイズムで教化された青年男女が,人民解放軍の中枢をなしている。その人民解放軍が国軍に統合され,国軍がマオイスト化すれば,インドへの影響は計り知れない。自国内のマオイスト運動に手を焼いているインドは,あらゆる手段を使って,ネパールのマオイスト化を阻止しようとするに違いない。もしそうなら,プラチャンダ氏の闘いは容易ではない。勝利は絶望的となる。
     
    しかし,プラチャンダ氏は有能な政治家だから,無謀な玉砕戦法はとらず,おそらく玉虫色決着を図るだろう。これはナショナリズムへの裏切りであり,この場合,プラチャンダ氏の人気は急落するだろうが,にもかかわらず彼は政治家として有能だから,祖国人民のため,罵詈雑言を甘受しつつ,静かに引退するだろう。
     
    こうした未来予測は危険なカケだが,ネパールの平和のために,プラチャンダ氏が偉大な政治家であることを願わずにはいられない。
    4/23/2009

    プラチャンダ氏は内藏助か?

    谷川昌幸(C)
    プラチャンダ氏の評判が芳しくない。贅沢三昧,身内びいき,優柔不断,外国漫遊等々,そこまでいわなくても,と気の毒になるくらい,いわれ放題だ。
     
    プラチャンダ氏に革命家のコワモテ・イメージはない。いかついガードがついていても,どこかほ~んわか,柔らかムードで,好感が持てる。
     
    しかし,プラチャンダ氏は,10年余の人民戦争を指導してきた人物だ。私も,他の多くの人々も,革命など無理だと思っていたのに,見事,共和制革命を達成した。これだけでも,プ氏は21世紀初の英雄であり,「プラチャンダ空港」「プラチャンダ大学」と改名し,旧王宮前に巨大プラチャンダ像(お得意の右手拳を上げた革命スタイル)を建立してもよいくらいだ。
     
    その過去の偉大と現在の矮小は,まるで釣り合わない。ネコかぶりではないか? 大石内藏助の「昼行灯」,仇討ち前の「優柔不断」「女遊び」のたぐいではないか? いまは仮の姿,敵は資本主義本丸にあり。そんなことを想像したくなるほど,プラチャンダ氏は神秘的だ。
     
    もしこれが単なる空想,買いかぶりであるのなら,人民戦争の英雄をたちまち凡庸な「放蕩」政治家にしてしまうネパール政治の魔力は,これまた恐るべきものだといえる。ヒマラヤの神秘といってよい。
     
    プラチャンダ氏は本物か,それともネパール政治の魔力が勝るか? 興味は尽きない。
     
    (補足)
    破壊と創造と維持は,それぞれ別の能力を要請する。ネパールの神々も分業しているし,わが信長・秀吉・家康にもそれぞれの役割があった。西郷と大久保の違い何か? この点については,別の機会に改めて論じることにする。
    4/13/2009

    アフガン・マオイスト,ネパール・マオイストを糾弾

     谷川昌幸(C)
    アフガニスタン共産党(マオイスト)が,ネパール共産党マオイスト(CPN-M)を厳しく糾弾している。非は,遺憾ながら全面的にネパール・マオイストの側にある。
    Open Protest Letter from the Communist(Maoist) Party of Afghanistan to the Communist Party of Nepal(Maoist), Revolution in South Asia, April 8, 2009
     
    アフガン・マオイストによれば,アフガンにはネパール武装治安要員が1500~2000人いる。当初は米警備会社の警備員として派遣され,たとえばShindand空港には700人も配備されている。ネパール・マオイスト政府は,これに反対するどころか,今度はPKO派遣増派を画策している。
     
    マオイスト政府になった頃から,Shindand空港ネパール人治安要員は,米「特殊部隊」の直接指揮下に入り,カンダハルではカナダ軍と共同任務に就いている。
     
    アフガン・マオイストは,第6回CCOMPSA(南アジア・マオイスト協議会)大会でアフガン派遣ネパール治安要員の問題を提起し,ネパール・マオイストも善処を約束した。しかし,この約束は裏切られた。なぜネパール・マオイストは,米帝国主義のアフガン侵略に加担するのか?
     
    ネパール・マオイストは,制憲議会選挙の選挙公約でゴルカ兵を「恥ずべき伝統」と呼び,これを廃止しネパール国内の生産的活動に就かせる,と約束した。ところが,アフガンやイラクのネパール兵については,CCOMPSAでの約束を無視し,さらに増強しようとさえしている。
     
    「いまネパール共産党マオイスト(CPN-M)の議長がネパールの首相だ。防衛大臣はCPN-Mの指導者の一人だ。財務大臣や他の重要大臣もCPN-Mだ。つまり,連立内閣はCPN-Mの指導下にある。それなのに,この政府統治下の市民がアフガンやイラクの占領軍の重要部分を担っている。ネパールで10年に及ぶ人民戦争を指導してきたその党が,いまでは恥知らずにも占領軍と手を結び,彼らの計画の実現に協力しているのだ。」
     
    ネパール・マオイストは政権を握っており,アフガンやイラクへのネパール武装治安要員派遣を止めようと思えば,すぐにでも止められる。では,なぜそうしないのか?
     
    「もし停止しないのであれば,追従者・ネパール武装治安要員は,アフガンで帝国主義侵略者の利益のために民衆の血を流すばかりか,いずれアフガン・マオイストの血や,わが党と関わりのある人民の血を流すことになるであろう。」
     
    まさに,血を吐くような厳しい糾弾ではないか。ネパール・マオイストは,アフガンの友党のこの批判に,どう答えるのか?
     
    答えられるはずがない。このブログでもすでに批判したように,ネパール・マオイストは自分たちが「恥ずべき伝統」と非難してきたゴルカ兵募集をすでに容認している。また,ネパール人青年男女を「人的資源」と見なし,日本や東南アジア,湾岸諸国に積極的に輸出し始めている。
     
    ネパール・マオイストは,人民弾圧のための傭兵として,また安価な使い捨て労働力として,自国人民を外国に売り渡しているのだ。
     
    国王や封建的支配者が人民を売るのなら,まだ分からないではない。ところが,いまはそうではない。人民の友マオイストが,人民を外国に売りつけている。アフガン・マオイストの非難するとおりだ。
     
    このようなアフガン・マオイストの非難に対しては,早速,反論が出されている。アフガン・マオイストなんて泡沫政党だ,ネパール・マオイストがせっかく政権を取ったのに,現実を無視して攻撃するのは,利敵行為だ,等々。たしかに,これらは政権維持のための戦術であり,長期戦略が革命達成であることは変わらない,という見方もある。 しかし,そうした言い訳は,いまネパール傭兵に殺されるかもしれない人々や,ネパール人出稼ぎ労働者に職を奪われるかもしれない現地労働者には通用しない。
     
    ゴルカ兵募集,国連PKOへのネパール兵派遣,出稼ぎ労働者の送り出しは,いずれもマオイスト・イデオロギーそのものに反している。直ちに止めるべきだろう。
     
    (参考)
    4/2/2009

    パサン「歴史の赤い歩み」

     谷川昌幸(C)

    人民解放軍(PLA)総監(Chief)のパサンが,戦記「歴史の赤い歩み」を出版した。人民戦争の作戦の多くを指揮した人物の著作であり,戦記として興味深い。
       Pasang, Red Strides of the History, Agnipariksha Janaprakashan Griha, 2008

    Pasan (Nanda kishop Pun)は,1965年10月23日,ロルパのラングシ村で生まれた。ラングシ村学生委員会委員長,リバン左派学生会委員長(1982),ブトワル全国学生大会参加,共産主義活動を理由に退学処分,ダバンでSLC取得(1983),ラングシ村学校教員となり教員組合(左派)で活動。ダン・キャンパス学生委員会委員長(1989-91頃),卒業後ネパール共産党マシャル(CPN-Mashal)参加。CPN統一センター参加,地下活動へ。青年共産主義者同盟(YCL)委員長。PLA部隊長を経て,現在はPLA総監(Chief)。パサンは,優れた指揮官であるばかりか,武器製造の知識も豊富。政治局メンバーであり,PLA担当。

    このパサンの著「歴史の赤い歩み」は,読み物としては面白いとは言えないが,戦記としては興味深い。特に,戦闘についてのマオイスト発表と政府側発表との食い違いについては,考えさせられた。主な点を表にすると以下のようになる。表の上段=パサン(マオイスト側)の主張,中段=政府側発表,下段=BBC等の報道(本書記述のまま)。 

    作戦 年月日 マオイスト兵力 マオイスト死者 政府側死者 備考
    Holeri
    1996.02.12
    36-36
    -
    -
    0
    -
    -
    0
    -
    -
    警察署攻撃。人民戦争開始。
    Jhimpe
    1999.01.24
    62
    100
    -
    0
    15
    -
    3
    2
    3
    警察署攻撃。武装闘争方針確立。
    Jelbang
    1999.05.02
    116
    5000
    5000
    1
    40
    -
    3
    -
    2
    警察署攻撃。国家テロへの反撃。地方選阻止。
    Lahn 1999.06.14
    154(+50義勇兵)
    5000
    -
    0
    50
    -
    9
    9
    -
    警察署攻撃。警官隊降伏。武器奪取。
    Mahat
    1999.09.22
    166
    6000
    数千人
    1
    数百人
    -
    スパイ数名処刑
    6(+1民間人)
    9
    警察署攻撃。Kilo-Sera2への反撃。
    Ghartigaun 2000.02.19
    506
    6-7千人
    最大規模
    1
    数百人
    -
    17
    17
    17
    警察署攻撃。武器奪取。ロルパ方面の政府機関壊滅。
    Taksera
    2000.04.03
    230
    6000
    -
    2
    35
    -
    13
    数名
    -
    警察署攻撃。全国バンダ実施。
    Panchkatiya

    2000.07.03
    243
    6000
    -
    2
    -
    -
    13
    -
    -
    警察署攻撃。
    Dunai 2000.09.24
    566
    10000
    -
    2
    200
    -
    15
    -
    -
    郡警察署陥落。軍は動かず。
    Rukumkot
    2001.04.01
    330
    10000
    -
    8
    115
    -
    32
    32
    -
    警察署攻撃。
    Holeri 2001.07.12 800
    -
    -
    0
    35
    (数百人)
    1
    0
    -
    警察署攻撃。軍が警察隊救出出動。
    Ghorahi
    2001.11.08
    1100
    20000
    -
    7
    200
    -
    21
    21
    -
    軍攻撃。
    Mangalsen 2002.02.16
    900
    20000
    -
    47
    300
    300
    147
    147
    147
    軍攻撃。BBCはM側未確認と留保を付け始める。
    Lisme 2002.05.02 700
    -
    -
    6
    350-750
    350-750
    5
    -
    -
    軍攻撃。
    Gam
    2002.05.07
    5中隊
    10000
    -
    35
    350
    350
    104
    104
    104
    軍攻撃。
    Sandhikharka
    2002.09.08
    1旅団
    20000
    -
    64
    335
    335
    74
    64(不明48)
    74
    軍攻撃。
    Jumla
    2002.11.14 1旅団,数中隊
    25000
    -
    50
    500
    500
    48
    48
    48
    軍攻撃。
    Beni 2005.03.20 PLA4500他
    -
    -
    -
    -
    -
    -
    -
    -
    総攻撃。集計なし。

    以上は,あくまでもパサン(マオイスト側)の言い分であり,どこまで真実かは分からない。常識的には,いずれの側も「大本営発表」をやっていると見るべきだろう。

    それを差し引いても,政府側は誇大報道といえる。ゲリラ戦だから仕方ない面はあるが,本当にこの程度の情報収集能力であったとすれば,鎮圧は無理だ。

    また,それ以上に,警察(コングレス等)と軍(国王)との反目は,政府にとっては致命的であった。もし両者が当初から協力しておれば,マオイストの軍事的勝利はなかったといってよい。事実,2001年11月以降の軍攻撃以降,マオイスト側の損失は激増した。軍が本気になれば,PLAに勝ち目はない。

    いずれにせよ,戦争は人間を数に還元し,より多くを殺し破壊することを目的とする。善悪の逆転が戦争だ。道徳の観点からは,いかなる戦争も絶対に正当化できない。が,政治は暴力(悪)を手段として幸福(善)を実現する営為であり,ギリギリのところでは戦争を否定しきれない。パレスチナの人々に実力で抵抗するなという勇気は私にはない。それが政治の難しいところであり,人民戦争の評価の難しいところでもある。

    3/21/2009

    ゴルカのマオイスト

    谷川昌幸(C)
    バブラム・バタライ氏に敬意を表し,ゴルカの状況調査に行ってきた。道路は,カトマンズ・ムグリン間もムグリン・ゴルカ間も,最近改修されたらしく,予想以上によかった。特にポカラ分岐点からゴルカまでは,バブラム道路かな(?)と思うほど快適だった。ネパールにも政治道路があるのだろうか?
     
    ゴルカは初めて。山腹の小さな町だが,この近辺の村々の中心らしく,屋根にまで乗客を満載したバスがかなり頻繁に通っており,バザールもにぎわっていた。 町も周辺の村々もカラカラに乾燥し,赤煉瓦色の土はサラサラの粉末状となり,一面を覆っている。水は豊富で,いくつも水場があるが,各戸への水道は普及していないらしく,大きな水瓶を持った少女たちが急坂をあえぎあえぎ登ってくる。過酷な労働であり,水の貴重さが身にしみる。
     
    ゴルカはバブラム・バタライ氏の本拠だが,マオイストのポスター類は意外に少ない。町の入り口には,例のマオイスト・アーチが設置されていたが,ポスター類はUMLのものもNCのものもある。 夕方,数十台のバイクと乗客満載のバス2台と,武装警官満載の車両が登ってきた。マオイストと警戒の武装警官らしい。バイク隊は凶暴そのもの,そしてバス満載のYCL(たぶん)も大声でシュプレヒコールを叫んでいた。 こんな夕方から何をするのかと見ていると,小型トラックに乗り換え,停電で薄暗い村々を回って,オルグをやっているらしい。遠くの村の方面から,シュプレヒコールが聞こえてくる。やがてゴルカの町に戻ってきて,ホテル下の広場で解散となった。こんな圧力を掛けられたら,村人は抵抗できないだろう。
     
    ただ,ネパールの不思議なところは,先にも述べたように,他勢力が根絶されるのではなく,共存していることだ。軍駐屯地があり兵隊だらけだし,シャハ王家のゴルカ王宮には熱心な信者の参詣が絶えない。高級ホテル(といっても1室15ドル)では,朝7時からお偉いさんが車で参集,チャッカリ兼朝食兼選挙運動(?)をやっていた。警察幹部らしい人も一緒だった。 ヒマラヤは,春霞のため全く見えなかった。
     
      
     ゴルカ(2009.3.20)